『 でく工房 』 作り手 中村一也
三重県伊勢市二見町。伊勢湾をのぞむ海沿いの集落を抜けると、中村 一也さんの「でく工房」があります。
昔、漁師だったおじいさんが海苔小屋として使っていた建物を譲り受け、ガラス製作を始めたのが10年ほど前。
薄暗い室内に入ると、吹き竿や型などの道具類にまじって、サイダーの空瓶が何ケースもストックされているのが目に入りました。
「原料は伊勢の地サイダーの空瓶を使ってるんですけど、洗ったりラベル剥がしたりするのも地味に大変で。それに真夏になると工房はホンマに暑くて、どうしようもない時は子供用のビニールプールに水をはって、身体を冷やしながら吹いてます。汗もかなりかくんで、体重も減りますしね」
想像するだけでも大変な体力仕事だけれど、仕事上がりのビールはさぞ美味しいだろうなぁ、そう思いながら尋ねてみると「いや、それがお酒がダメで・・・顔は飲みそうやのにってよく言われますけど(笑)」
高校卒業後、一度は町工場に就職したのち沖縄に惹かれて移住し、ガラス工房「清天」で修業した20代。
地元に戻ってからは、分業体制で製作していた清天時代とは違い何事も一人でこなさねばならず、はじめはかなり戸惑ったとか。溶解炉や徐冷窯もできるだけコストをかけないために鉄工所のおっちゃんに手伝ってもらって自作したとのこと。
「何となく作ったんで、本当に扱いにくいですよ。再生ガラスって普通のガラスに比べて固まるスピードが早いから、手早くカタチを整える必要があるんですけど、この窯だと溶けたガラスの状態がいつも違うから、あとは吹き方で対応するしかないんです。まあ、いいところと言えば自分が鍛えられることくらいですかね」
中村さんの作品は遠浅の海のようなうっすらと緑がかった色合いと、再生ガラスならではのやわらかな手触り、飲み物や料理を盛って完成する引き算の感覚がいいなぁと思う。先日、電話でそんな話しをすると、「作りたいのは普通のもの。どこにでもあるやんて言われればそうなんですけど、自分はそれがええなぁと思ってやってます。でも、見た目には同じでも5年前に作ったのと今のでは、口のつくりや全体のバランスが少し違っているのもあるんですよ。それは技術的に進歩したり、今の気分で変えたりとちょっとづつマイナーチェンジはしてるかな」
中村さんと僕は偶然にも同じ年齢、同じ中村姓。ベタな苗字なんで世の中にはまだまだ中村さんはいるだろうけど、今後どんな作品を作っていくのか同級生としてもとても楽しみです。
『中村一也 硝子展 』
2019.6.1 sat – 6.16 sun
※会期中の店休日 6.4 tue / 6.11 tue