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わら細工たくぼさん の仕事

 

わら細工たくぼ   川しまゆうこ宮崎県日之影町。九州山地の山あいにある町には幾筋もの深い谷川が流れており、急傾斜の土地には昔ながらの棚田が広がっています。たくぼさんの田んぼもそうした風景のひとつ。写真下の方に数軒並んでいる家々の左2軒がたくぼさんの工房です。

 

わら細工たくぼ   川しまゆうこ「勾配がきつい上に限られた土地に少しでも多くの稲を育てられるよう、農道も狭くしてあるので、農機具を動かすだけでも大変です。しかも田んぼによっては機械が入らないので、人の手でやらなきゃいけない場所もありますし。」甲斐さんたちの仕事は自然とともにある。美しいばかりではない地に足の着いた日々の仕事。(こちらの田んぼで稲が作られます)

 

わら細工たくぼ   川しまゆうこ60年以上に渡って地元のしめ縄などを作り続けてきた甲斐さんご一家。お父さんの代までは兼業で仕事をされていたとのことですが、三代目になる甲斐陽一郎さんが跡を継いでからは、専業としてわら細工を作っています。他にもご家族のメンバーや近所の方々、都会から移住・Uターンして一緒に仕事に励んでいる仲間などチームとして仕事を分担されています。(写真の左奥が陽一郎さん。右側がお父さん)

 

わら細工たくぼ   川しまゆうこ一口にわら細工を作ると言っても、藁を編む(日之影では”綯う”と言います)作業だけに専念しているわけではありません。「今は使う藁のほとんどを自分たちで作っているので、実は藁を綯う作業よりも、農作業に費やす時間の方が長いんですよ。初春の土づくりから始まって5月は苗づくり、6月に田植え、そして夏に青刈りを、秋に稲刈りをして天日での掛け干しと続きます。そうした間に、前年に収穫し暗所で保管している藁を使い、スケジュールを見越しながらわら細工の制作を並行して進めていきます。」(田んぼごとの段差が大きいので畦の草刈りも大変)

 

わら細工たくぼ   川しまゆうことは言え、やはり自然相手の農業は思い通りにいかないことも多く、その年の天候に大きく影響を受けるそう。発芽した後の苗がうまく育たなかったり、長雨で稲の成長が遅れたり、台風が接近したりと心配事は絶えません。「やっと稲刈りが終わった後も、まだ気は抜けないんです。乾燥と稲穂の形を整えるために田んぼにはさ掛けして20日ほど天日干しするんですが、干している間に3回雨に濡れてしまったら藁が使えなくなります。だから、雨が降りそうになったら急いでビニールカバーを掛けに田んぼに走ります」(不安定な秋空は特に気が抜けないそう)

 

わら細工たくぼ   川しまゆうここうしてようやく材料となる藁が確保できるのですが、更にわらすぐり(藁選り)と呼ばれる作業を経て、実際 使えるようになる藁は収穫時の1/3ほどに。残った藁くずは近所の牛のエサや田んぼの肥料として利用されます。

 

わら細工たくぼ   川しまゆうこわら細工の工房は10畳ほどの広さがあり、みなさんそれぞれ黙々と作業をされています。とは言っても緊張感みなぎるといった感じではなく、集中して目の前の仕事に丁寧に向かい合っているという感じでしょうか。春先に伺った際は甲斐さんの甥っ子たちも何やら楽しそうにお手伝いをしていて、将来有望な職人候補のようでした。(写真は横浜から移り住んで、すっかり仕事が板についた山木さん)

 

わら細工たくぼ   川しまゆうこ地道なひとつひとつの工程を経て、ようやくお店にわら細工が届きます。出来上がったものを見るだけではなく、年間を通してどのような仕事をされているか、少しだけ背景を知っていただけると嬉しいです。また、お客様からはせっかくなら年始から飾りたいので、年末に買いたい、あるいは予約できないかという声も多く頂くのですが、たくぼさんは秋の刈り入れから年末にかけては一段と忙しくなり、特に12月は地元のしめ縄づくりに専念されるため、それこそ朝から晩まで休む暇もないまま大晦日を迎えられます。僕らはそうした状況も考えながら、無理のない範囲でこれからも皆さんにたくぼさんのわら細工をご紹介していければと思っていますので、ご理解頂けると幸いです(写真はたくぼさんちの招き猫 テトラ)

写真:川しまゆうこさん
こちらで使用した写真は全て、フォトグラファー 川しまゆうこさんによるものです。
みずから何度も日之影に通い、農作業や製作風景などわら細工の製作の裏にある多くのことを写真で伝えられています。