お店のある『吉井』という町名は、清らかな良い水が湧き出る土地を表す「いい(吉)井戸水(井)」から付けられたと聞いたことがあります。その豊富な地下水を利用して、周辺では350年ほど前から小麦・麺づくりが盛んに行われるようになったそうで、今では九州の三大麺どころとしても知られています。
中でも200年以上の歴史をもつ長尾製麺の7代目長尾 洋介さんは、飽くなき麺への探求心と遊び心をあわせ持った天真爛漫な人柄。タイムスリップしたような昭和の古い自転車に跨って、カメラ片手にご近所を散策するのはこの町でお馴染みの風景です。
ただ、いつも陽気に冗談ばかり言っている長尾さんも、麺づくりのことになると真剣そのもの。この日は、麺を伸ばす工程を見せてもらったのですが、若手の職人さんの横で、スイスイと手際よく麺を延ばしていらっしゃいました。はたからは通常の麺延ばし作業に見えますが、長尾さんの作る「いろは」の麺は、小麦本来の風味を存分に引き出すために油を使っていない分、延ばす時の乾きが早いため、とても高度な技術がいるのだそう。ここまでたどり着くには、色々な試行錯誤と独自の工夫があったと教えてくれました。
こうしてできたこだわりの麺「いろは」はお店でも取り扱わせて頂いてますが、恐るべき情熱の持ち主である長尾さんは、工場に併設した日曜だけ開店する「うどん屋 井戸」でもみなさんに美味しい麺を提供してくれています。もし、日曜日に吉井に寄る機会があれば、ぜひ一度、足を運んでみてください。目印は、店の前にとめてある古い自転車です。
写真: 長尾製麺 いろは / JICON 菊皿 中皿